泡沫で儚い記憶

あなたの幸せが ずっと、ずっと、つづきますように。 小さな砂粒があつまって、 大きな岩になるほどに。 その大きな岩の表面に コケが生えるほどまでに。

【読書】 ライ麦畑でつかまえて / J.Dサリンジャー

今週のお題「人生に影響を与えた1冊」

 

もしも君が、これから話すこの本のことを興味深くもってくれるならうれしいんだけど、この本がどんなストーリーなのかとか、どんな感想をもったとか、どこがおもしろいのとか、そういった《ドッカノショヒョウサイト》式のくだらないことから聞きたがるかもしれないけどさ、僕にとっては、そんなことに興味がないんだよね。第一、そういったことを書いても、君にとっては退屈だろうし、第二に、他人の書評なんていうのほど、当てにならないと言うことを知っているからさ。もちろんいろんな書評サイトがあって、すばらしい事が書いてあるけれど、その本を読んでその人と同じ感情を持つとは限らないからね。

 

じゃぁ、なんでこんな文章を書いているかというと、今週のハテナのお題が「人生に影響を受けた1冊」で、いろいろな本を思い浮かべて考えたんだけど、人生のキーポイントで読み返した本は、この「ライ麦畑でつかまえて」しかなくてさ、訳はもちろん野崎孝さんじゃないとダメなんだよ。まぁそんなことで、この本について書こうと思って、46歳でもう一度読み返したんだけど、なんていうか19歳で読んだときと、27歳、34歳で読んだときとぜんぜん思ったことが違うんだよ。なんて言っていいかわからないけどさ。

 

最初にこの本を読んだのは19歳で浪人生で人生どうしようもなく、ふらふらとしていた時で、主人公のホールディンの同じようにクソ生意気で失敗ばっかりして、他人の視線も行動も、どいつもこいつも馬鹿ばかりと思っていてさ、もちろんそんなやつだから、周りとうまくいくわけがなく、孤立してそれでも強がっていたんだよね。そしてホールディンと出会って、本当の友達が出来た感じになって、ああ、俺もどっか遠くに行ってだれも僕のことを知らない土地で唖として生きていきたいなぁ と本気で考えてた。でも、そう思いながらも行動に移せなくて、今の嫁さんと出会い、なんとなく生きてきた気がする。

 

結婚してからは、信頼してくれる人がいることでなんとなく、がんばらなくちゃと思い始めてたんだけど、そのことがプレッシャーになって喧嘩ばかりしていた。好きなんだけど、愛しているんだけど、相手のことに腹を立てて些細なことで喧嘩。そんなときはまた、ホールディンに会いに行った。ホールディンはいつも同じ事をしていて、ニューヨークの街を悪態つきながら歩くんだけど、僕の立場が変わったせいで、同じ文章を読んでいても感じ方が違うんだな。うまく説明できないんだけど。

 

この連休中にまたホールディンに会って、なんでこんなにこの本に惹かれるのかを考えていたんだけど、はっきりとした答えが出ない。たぶん他の人にこの本を薦めても、僕と同じ感想はでてこないし、つまらない本って言われそうな気がするんだよ。現に気になってた女の子に勧めたら、ホールディンが何を考えているかさっぱりわからないって言われたし、友達を汚されたようで気分が良くなかったよ。だから君にこの本を薦めるのは気が引けるけれど、将来に不安があったり、他人のとのコミュニケーションがうまくとれなかったり、上手に生きられないときは、ちょっと読んでみてもいいとおもうよ。読んでも元気なんてもらえないし、よけい鬱になるような本で、でも自分と同じような境遇のホールディンがそこにいるだけで、それだけでいいと思えるんだよ。

 

たぶん、僕はこれからも何度も読むと思うけど、もし君がこの本を読もうと思ったら、読むたびに淋しさを抱えながら生きる事の大変さを知ることになるから、気をつけた方がいいよ。

 

  

 

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)