泡沫で儚い記憶

あなたの幸せが ずっと、ずっと、つづきますように。 小さな砂粒があつまって、 大きな岩になるほどに。 その大きな岩の表面に コケが生えるほどまでに。

【読書】 「わたしのグランパ」 筒井康隆著

 

SFじゃない、筒井康隆の第51回読売文学賞受賞作品。グランパとは祖父のこと。グランドパパから略してグランパ。生まれてからあったことの無い祖父が、刑務所から十数年ぶりに帰ってくる。家族は出所が近づき気が重くなる。孫の珠子だけが、興味津々で待っている。祖母は出所がわかるなり引っ越してしまう。

 

「なんてこった。顔も見たくないの」
 あきれた声で言う父に祖母は言った。「あれであの人、変な魅力があるからね。会うとヤバいのよ」

 

珠子は正義感が強く、そのせいでいじめられている。中学校の帰り道、いじめられているところを出所したばかりのグランパに見られる。

 

 では祖父は、一部始終を見ていたのだ、珠子はそう思い、祖父の容喙を恐れて身を固くした。
 案の定、謙三は訊ねてきた。「お前さん、いじめられとるのかね」
 珠子は思わず叫んでしまった。「抛っといてよ。学校のことが、ムショ帰りなんかにわかりっこないんだからね。余計な心配しないでよ。絶対、何もしないでよ」
 謙三は一瞬驚いたようだったが、すぐ、いかにも嬉しそうな笑いを見せ、珠子に顔を近づけた。「いやあ珠子。お前さん怒ると凄く怖い顔になるなあ。そんな怖い顔ができるんじゃ、いじめにも遭わねえだろう」
 あははははは、と愉快そうに笑いながら、謙三は家への角を曲っていった 

 

これが、グランパと孫の初対面のシーン。筒井康隆だから何か裏があると思ってしまいがちですが、グランパと孫の珠子のやりとりがメインとなっている。

中学生から高校生。珠子が成長する節目節目にグランパがかかわっていく。この小説は、少年少女の成長物語なのだ。人生の先輩から経験の雫を受け取り、自分で咀嚼し成長していく姿を見るのはすがすがしい。

 

この小説は読みやすく、それでいて次の展開が気になり、読みながら泣き笑いし、ほっこりする。映画は石原さとみのデビュー作で、映画新人賞を総なめ。こちらもどうぞ。

 

 

わたしのグランパ (文春文庫)

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