泡沫で儚い記憶

あなたの幸せが ずっと、ずっと、つづきますように。 小さな砂粒があつまって、 大きな岩になるほどに。 その大きな岩の表面に コケが生えるほどまでに。

【読書】 「蒲田行進曲」 つかこうへい著

 


映画にもなった「蒲田行進曲」映画は見ていないけれど、なにかのパロディで階段落ちと「銀ちゃんかっこいい~~~」という台詞は知っている。古本屋で10円で売っていて、ずっと本棚に眠っていたけれど、なんとなく読んでみた。

 

【あらすじ】


映画『新撰組』で、はじめて主役を演ることになった銀四郎。その恋人で、かつてのスター女優小夏。そして銀四郎を慕う大部屋のヤス。―銀四郎は、あたらしい「女学生のような」女の子に熱を上げ、妊娠した小夏をヤスに押しつけようとし、小夏は銀四郎を諦めてヤスを愛しようとつとめ、ヤスは「大好きな銀ちゃん」の言うままに、お腹の赤ん坊ごと小夏を引き受け、小夏との家庭を築いていこうとする。サディスティックなほどにマゾヒスティックに、傷つき、傷つけることでしか成立しえない「酷薄な愛」を描いたつかこうへいの代表作。第86回直木賞受賞。

  

蒲田行進曲 (角川文庫 緑 422-7)

蒲田行進曲 (角川文庫 緑 422-7)

 

 

 

時代設定は昭和の粗雑で口が悪い時代のことなので、読んでいると胸糞が悪くなる台詞もある。でも「本を読む時は、価値観を持ち込まず、まっさらな状態で読む」ということを心がけ、自分がヤスだと思ってどんどん読んでいった。

 

大部屋役者のヤスが大スターの銀ちゃんに心酔し、銀ちゃんのことを思って行動する様は滑稽だけれども、わかる気がする。そんな銀ちゃんから、憧れの女優だった小夏と結婚を押し付けられても、小夏のおなかの中に銀ちゃんの子供がいたとしても、銀ちゃんの頼みだからと、受け入れてしまう。

そんなヤスが小夏と結婚し、だんだんと本気で小夏のことを好きになるにつれ、小夏は憧れの銀ちゃんの女だったという嫉妬とジレンマで、身を焦がすような態度をとってしまう。

 

好きだからこそしてしまう、暴力と束縛とののしる言葉。こんな事言いたくないのに我慢が出来なくて、つい口にしてしまう。そんな自分がいやで、小夏を避けるようになり、銀ちゃんをもっと輝かせるために、決死の覚悟で「階段落ち」を演じる。もしかしたら、ヤスが小夏に悪態をついたのは、小夏がヤスのことを嫌いになって、階段落ちで死んだ後に、銀ちゃんと幸せになってほしいからと思ったのかもしれない。

 

好きなシーンは、銀ちゃんが小夏にプロポーズをするところ。やっぱり男性は別れた女性が他の男と幸せになるのが、許せないのかもしれない。俺のほうが幸せにできると思ってしまう。そういう意味では男性の方が未練がましい。

 

相手を思いすぎてとった行動が、行き過ぎてしまい、どうして思い通りにならないんだというジレンマを生み、銀ちゃん、小夏、ヤスの関係をゆがめていく。相手のことを思っているのに!という感情は日常でもよくある。この小説は、その姿を滑稽に喜劇として、身を焦がす悲劇として書かれている。

 

読むときは自分はヤスなんだ! 銀ちゃんかっこいい! と思いながら読むとラストに熱いものが込みあげてきます。今度は映画を観なければ。お勧めです。

 

 

 

銀ちゃんが、ゆく―蒲田行進曲 完結篇 (つかこうへい劇場)

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蒲田行進曲 [DVD]

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