泡沫で儚い記憶

あなたの幸せが ずっと、ずっと、つづきますように。 小さな砂粒があつまって、 大きな岩になるほどに。 その大きな岩の表面に コケが生えるほどまでに。

【読書】 「蹴りたい背中」 綿矢りさ著

 

今更ながら、「蹴りたい背中」を読んだ。第130回芥川賞受賞作品。当時最年少芥川賞受賞ということで話題になった。

 

【あらすじ】

長谷川初実(ハツ)は、陸上部に所属する高校1年生。気の合う者同士でグループを作りお互いに馴染もうとするクラスメートたちに、初実は溶け込むことができないでいた。そんな彼女が、同じくクラスの余り者である、にな川と出会う。彼は、自分が読んでいるファッション雑誌のモデルに、初実が会ったことがあるという話に強い関心を寄せる。にな川の自宅で、初実は中学校時代に奇妙な出会いをした女性がオリチャンという人気モデルであることを知る。にな川はオリチャンにまつわる情報を収集する熱狂的なオリチャンファンであった。 

 

他の人の書評を読んでみると、冒頭が素晴らしいと言うのをよく見る。

 

  さびしさは鳴る。耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、胸を締めつけるから、せめて周りには聞こえないように、私はプリントを指で千切る。細長く、細長く。紙を裂く耳障りな音は、孤独の音を消してくれる。気怠げに見せてくれたりもするしね。葉緑体? オオカナダモ? ハッ。っていうこのスタンス。あなたたちは微生物を見てはしゃいでいるみたいですけど(苦笑)、私はちょっと遠慮しておく、だってもう高校生だし。ま、あなたたちを横目で見ながらプリントでも千切ってますよ、気怠く。っていうこのスタンス。

 

はしゃいでいる周りを横目で気にしながら、寂しいと嘆く。でもそれは表に出さない。中二病の続きみたいなもの。どこかでこう言う人物がいたと考えたら、「ライ麦畑でつかまえて」のホールディンだった。ホールディンは大都会ニューヨークの中で自分の居場所を探しながら「インチキなもの」を嫌悪していたが、「蹴りたい背中」のハツは教室の中で周りを見下しながら自分のポジションを探している。

 

 私は、余り者も嫌だけど、グループはもっと嫌だ。できた瞬間から繕わなければいけない、不毛なものだから。中学生の頃、話に詰まって目を泳がせて、つまらない話題にしがみついて、そしてなんとか盛り上げようと、けたたましく笑い声をあげている時なんかは、授業の中休みの十分間が永遠にも思えた。自分がやっていたせいか、私は無理して笑っている人をすぐ見抜ける。大きな笑い声をたてながらも眉間に皺を寄せ、目を苦しげに細めていて、そして決まって歯茎を剥き出しそうになるくらいカッと大口を開けているのだ。顔のパーツごとに見たらちっとも笑っていないからすぐ分かる。

 

そして気がつく。自分のランクが一番下だと。そんな中、同じようにグループに入れなかった、男性のにな川を見つける。にな川はモデルのオイチャンが大好きで、他のことは目に入らない。教室内での自分のランクも気にならない。ハツは、にな川に自分と同じような種類の人間だと感じる。二人だけの濃密な関係を期待している。それがにな川の部屋に行き、オイチャンコレクションを見ているときに、オイチャンのアイコラを見つける。

 

 「これは、無理がある……。」
 無理があった。オリチャンの顔写真に、オリチャンの本当の身体とは似ても似つかないだろう、まだ成長しきっていない少女の裸が、指紋のついたセロテープでつぎはぎしてある。
 肌の色も紙の質も全然違うし、遠近の釣り合いも取れていない。オリチャンの顔写真がアップすぎて、少女のか細い肩の上を転げ落ちてしまいそうだ。そして何より大人の顔のオリチャンと少女の身体のアンバランスさが、人面犬みたいに醜い。

 

この瞬間にハツはにな川を見下すようになる。同じハグレモノ同士なのに自分のほうがランクが上だと思う。その瞬間、ラジオを聞いていたにな川の背中を蹴る。蹴られたにな川は動じなかった。アイコラを見つかったことにも動じなかった。周りがどう思うと自分はオイチャンだけ追い求める孤高の存在。それがハツをイラつかせる。何事にも動じないにな川。そんな彼を下に見ることで、自分の居場所をなんとか維持しようとするハツ。

 

二人の関係はまだまだ続いていく。

 

 

 

蹴りたい背中 (河出文庫)

蹴りたい背中 (河出文庫)

 

 

※比喩や文章がまだこなれていない感じがして、青いです。それがこのテーマに合っているのかもしれません。