泡沫で儚い記憶

あなたの幸せが ずっと、ずっと、つづきますように。 小さな砂粒があつまって、 大きな岩になるほどに。 その大きな岩の表面に コケが生えるほどまでに。

【読書】 「死神の精度」 伊坂幸太郎著

 

伊坂幸太郎の作品は、何作も映像化されているし、人気も高い。彼の作品を読んだのは「魔王」以来2作品目。「魔王」はみんなが絶賛するほど面白くなかった。もしかして「魔王」が面白くないだけで、他の作品は面白いのかもと思い、短編集の「死神の精度」を読んだ。

 

「死神の精度」は、人間に扮した死神が、死期間近な人間を観察し、そのまま死期を迎えるか、延命するかを死神が判断する、という連作短編集。主人公が死神のせいか、文章が淡々としていて、抑えられた描写は死神のせいなのかと思っていたけど、読み進めていくうち、ああ、これは伊坂幸太郎の文章の特長なのかもしれない と気がついた。

 

話の展開や結末は、非常に論理的だけど、乾燥した文章。ワープロで筋道を先に考えて、後から肉付けしたような話が多い。簡単に言えば、パズル雑誌についている、推理パズルの問題文のような文章。「死神の精度」には全部で7つの短編が入っているが、3つめで読むのを止めてしまった。朝井リョウが「小説を最後まで読ませることが出来たなら、作家の勝ち」みたいなことを言っていたが、最後まで読めなかった。

 

彼の文章は、情景描写で思いを重ねることも、心理描写で心をえぐることもない。それよりも、ワープロで前後を肉付けしてあたかも論理的に考えたようなプロットや文章が鼻につく。「魔王」でもとってつけたような鈴の音で漫才の天丼のような効果を狙っていたけど、あれも後付けっぽい感じがした。

 

奥田英朗の「空中ブランコ」という短編集は、伊良部というちゃらんぽらんな精神科医のところに、悩みを抱えた人が相談に来る小説で、プロットも文章もすばらしい。悩んでいる相談者の心理が痛いほどわかり、あっという方法で解決してしまう。「死神の精度」もそんな感じを求めていたけど、死期が近い登場人物に感情移入できるような描写がない。アガサクリスティの短編集は、登場人物が魅力的で犯罪が起きなくても楽しいのに。

 

もちろん好みがあるので、好きな人も多いだろうけど、薄っぺらな論理的文章しかない本なら、もう伊坂幸太郎の本は読みたくないなぁ

 

 

 

死神の精度 (文春文庫)

死神の精度 (文春文庫)