泡沫で儚い記憶

あなたの幸せが ずっと、ずっと、つづきますように。 小さな砂粒があつまって、 大きな岩になるほどに。 その大きな岩の表面に コケが生えるほどまでに。

【読書】 「カカシの夏休み」 重松 清著

 

 

カカシの夏休み (文春文庫)

カカシの夏休み (文春文庫)

 

 

もう若くないのはわかっているが、疲れる──。三十代後半、家庭では大黒柱を演じ、仕事は上から下からの難題を突きつけられつつ、かすかなモラトリアムをしのばせる世代。ダムに沈んだ故郷をでて二十年がたち、旧友の死をきっかけに集まった同級生それぞれの胸にある思いは「帰りたい、故郷に」。人生の重みにあえぐものたちを、励ましに満ちた視線で描く表題作はじめ三篇を収録。現代の家族、教育をテーマにつぎつぎと話題作を発信しつづける著者の記念碑的作品集。

 

この本には 3つの中編が載っている。「カカシの夏休み」「ライオン先生」「未来」アラフォーの男性教師の話が2編、19歳女性の話が1編。あとがきにこの本は

 


一冊の作品集に編んでから気づいたことなのだが、「帰りたい場所」と「歳をとること」と「死」が、それぞれ濃淡を見せつつ組み合わさったお話が並んだ。特に意識したわけではない。

 

とある。

3つの話は、学校を舞台にした、ばらばらの話だけれども、根底にあるのは「過去へのノスタルジー」だと思う。帰れない場所への郷愁。無くしたものへの決別。死んだ者への謝罪。今いる場所と過去を比べて、過去を振り返りつつ、現実の問題を乗り越えようとする話は、とても人間くさい。


それぞれの話では、自分ではどうしようもないような問題が主人公に降りかかる。「俺のせいじゃねーよ」と悪態をつきたくなるような、ひどい事がおきる。それでも過去を思い出し、現実逃避しながら最後は力強く一歩を踏み出す話に、自分も元気が沸いてくる。


重松清さんの小説は、加害者の関係者とかどうしようもない状況に追い込まれる事が多いと思う。状況説明に加え、登場人物の心情を比喩を使ってうまく表現している。その比喩が湿り気を帯びてねっとりしている気がする。同じような話でも奥田英朗さんだと文体がちょっと明るい。

例えば


長かった一日は、そんなふうにして終わった。
 深い水の中を素もぐりで泳いでいたような一日だった。水面に浮かぼうとしているのか底に沈みつつあるのかも、わからない。

とか

 

連続ドラマを途中の回から観ているようだった。登場人物の関係も筋書きもわからず、どこにも感情を込めることができないまま、同級生が自殺してしまった一日が、目の前をただ流れていった。

とか。

 

過去への望郷というは、誰にでもある。今いる自分の位置が過去の結果で、これからの未来は今の出発点だ。自分の人生を振り返りつつ、これからの人生を歩んでいくのは人間の特権なのかもしれない。


「カカシの夏休み」と「ライオン先生」は中年という、夢見がちな若いころと違い現実が見えてきて、自分の限界がわかってくる世代の話だ。過去の選択は間違っていなかったのか、未来はどこへ続いていくのか。それぞれの主人公は指しぬきならない現実と向かい合いながら、そこから脱却をはかっていく。

 

そこに救いがあり、思いテーマでありながら読書後、勇気をもらえるのだと思う。
アラフォーの男性の方、おすすめです。

 

 

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