【読書】 小泉今日子 書評集
小泉今日子がアイドルだった頃は、あまり興味がなかった。興味が出てきたのはある雑誌で読んだエッセイが好きで書いた人を見たら「小泉今日子」とあったからだ。
この本は読売新聞に2005年から2014年まで載った書評集。
彼女の文章は簡潔で奥深い洞察がある。例えば
それにつけても今朝の骨肉 工藤美代子著 p51
家庭という小さい器の中ではとっても大きな父親の背中を、もっと大きな別の器の中で見るとびっくりするほど小さく頼りなくて腹立たしさを感じたことがある。自立して、社会に出て働くことに自信がついた頃だったと思う。でも、後で気付くのだ。その小さく見えたあの背中はやっぱりとてつもなく大きかったのだと。
別の書評で「母親と娘は永遠に変な関係」とあったけど、父親と息子の関係も難しい。
ミーナの行進 小川洋子著 p56
思い出の切なさも美しさも儚さも、全部上手に伝えることは本当に難しい。『ミーナの行進』はそういう意味でも完璧な物語かもしれない。
言葉は難しい。けど相手の想像が言葉の予想以上なこともあり、映像より自由に想像できるから本は面白い。
変愛小説集 岸本佐知子著 p108
恋をしているときはきっと誰だって変なのだと思う。それまでの日常とは完全に世界が変わってしまうのが恋というものだ。他人から見たらバカらしい囁きも、恥ずかしい行動も、恋する二人にとってはすごく切実で純粋な思いなのだ。
いくら理知的な人でも恋をすると理論よりも感情が先行して周りが見えなく
なる。そして傷ついて成長する。
望月青果店 小手毬るい著 p178
過去の記憶を過ぎたことと忘れてしまえばどんなに楽かとよく思う。記憶は塗り替えることができないから厄介で、いつまでも胸を締め付ける。思春期の頃に母親に投げかけた酷い言葉がふとした時に生々しく心の中に蘇って居たたまれないような気持ちになることがある。
ただ、記憶は塗り変えられないけど、新しい記憶を育むことができる。
僕も、過去の記憶に縛られる方なので、些細なことを忘れて笑い飛ばす妻が好きなのかもしれません。
人間仮免中 卯月妙子著 p194
現実も妄想もひっくるめて自分が体験したことをすべて身を削って書く。二十五歳年上のボビーとの恋も赤裸々に全て書く。もうこれは卯月妙子っていうかっこいい女の生き様だ。心も身体もまだ痛いだろうに必死に書いた。そう思ったら泣けてきた。どんどん涙が溢れてしまった。
卯月妙子さんは総合失調症で、その体験をこの漫画に書いています。ぜひ読んでみたい。
巻末の特別インタビューで
女優とかタレントとしての名前が欲しいだけだったら嫌なんだけど、ってことと、文章の書き方などについて分かっていないことがいろいろあるので、原稿にきちんとした評価をしてくれるのか、ということでした。
彼女は強くて繊細な人なのかもしれない。心の襞が人より長いから傷つくこともある。それを本で癒やしている感じが書評の中からにじみ出ている。そんなキョンキョンの文章が好きだ。
※この本はカシマスタジアムで待っている間に読みました。そう考えると待ち時間も楽しいです。強い日差しの中ではスマホの画面は見づらいですが、本は読みやすいです。最高。